足を踏み入れた瞬間に、思わず耳を塞ぎたくなるほどのけたたましい犬たちのなき声がひびきました。その倉庫の真ん中、積み重なったゲージの上段に、糸ちゃんは、遠くを見つめる目で静かに座っていました。
『おいで』と手を差し伸べても抱き抱えても表情は変わらず、まるで何もかも諦めているようでした。
歯周病がひどく歯がとけていました。お腹や肩には、目で見てわかるほどの腫瘍がボコボコありました。最悪のことまで考えながら、乳腺全摘出手術にのぞみました。結果は、全て良性。スタッフ全員で喜びました。
繁殖犬として、人に利用され、名前もなく撫でてもらえることもなく自分の運命を察したかのように感情を持たなかった糸ちゃん。預かり宅でも譲渡会でも元気な犬におされ、いつも遠慮して壁近くにいました。
運命の出会いがあった譲渡会では、糸ちゃんは、なぜか、よく動いて前に来ていました。何か感じるものがあったのでしょう。
今は、暖かく優しい愛に包まれながら、第二の犬生を歩きはじめています。
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